書評とよべればいいけれど

本の紹介ブログです。解説というよりは感じたことを中心に、その本が読みたくなるような記事をめざします。

【書評】『ペンギンの憂鬱』は美しい灰色の小説

「2回も会うなんて…もしかして運命?!」

みたいなシーンってよくありますよね。

 

最近私もあったんです。小説と。

 

それがこちら、アンドレイ・クルコフさんの『ペンギンの憂鬱』(沼野恭子さん訳)です。

 

ペンギンの憂鬱 (新潮クレスト・ブックス)

ペンギンの憂鬱 (新潮クレスト・ブックス)

 

 

 

どんなお話かというと、まず、憂鬱症のペンギンがでてきます。かわいいです。

そしてそのペンギンを飼っているのが主人公・売れない小説家のヴィクトルです。

ヴィクトルはあるときから新聞の追悼記事欄を担当することになりますが、次第にまわりで不可解な出来事が起こるようになり…

あらすじはこんな感じです。

 

この作品の舞台は、

ソ連が崩壊してウクライナが独立した直後の、犯罪が横行したマフィアの暗躍する「過渡期」の都市キエフ

です。(訳者あとがきを引用させていただきました。)

 

舞台やあらすじから感じるかもしれませんが、

この作品は「社会性が強い」と評されることが多いようです。

しかし、訳者あとがきで沼野さんもおっしゃっているように、

政治的背景を気にしながら真面目に読まなくとも、楽しむことができる作品だと思います。

 

さて、いろんな方が書評で書いていますが、この作品といえば「衝撃のラスト」ですよね。

私も「こう終わるか~」とびっくりしました。

びっくりしましたが、違和感はなくて。

違和感はないけど、すっきりもしなくて。

読後数日は、「あれってこういうことだったのかな…」と思いをはせてしまう、

読んだ人と「あれってこういうことだと思ったんだけど、どう?」と語り合いたくなってしまう、

私にとっては心に小さな棘を残していくような作品でした。

 

そしてそれ以上にお伝えしたいのが、この作品の美しさです。

 

私が好きなのは、なんてことない部分ですが「つららが泣いている」という表現。

きれいな言い回しだなあと思いました。

他にも、

これまでより悪くならないよう祈って飲もう。もう一番いいことはあったんだから。

なんて台詞も、登場人物は口にします。

さらっと言っているけど、耳に残る言葉がたくさん出てくるんです。

 

私はこの作品に灰色を感じました。

(冬の小説であるのと同時に、終始暗雲がたちこめているからだと思います。)

その灰色を背景にとびかう美しい言い回し。

このセットがこの作品の見どころ、ならぬ、読みどころだなと私は感じました。

 

異国の風を感じたい方。ペンギンが好きな方。上記の台詞が耳に残ってしまった方。

ぜひ読んでみてください。

 

【『ペンギンの憂鬱』の書き出し】

はじめに、足元から一メートルほどのところにぽとんと石が落ちた。振りかえると、男が二人、にやにやしながらこちらを見ている。

 

はじめに、から始まる小説、なんかいいですね。